大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和51年(行ウ)21号 判決

福岡県糸島郡前原町高祖六二五番地

原告

内田大作

右訴訟代理人弁護士

水谷昭

福岡市西区百道一丁目五番二二号

被告

西福岡税務署長

小野貞人

右指定代理人

布村重成

中村程寧

江崎博幸

大神哲成

米倉実

中島亨

主文

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、 当事者の求めた裁判

一、 請求の趣旨

1  被告が昭和四九年七月八日付で原告の昭和四七年度分所得税についてした更正および過少申告加算税賦課決定の各処分のうち、総所得金額五〇一万二八七〇円税額七九万四八七六円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち一六〇〇円を超える部分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、 請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、 当事者の主張

一、 請求原因

1  原告は昭和四八年三月一五日被告に対し、昭和四七年分所得税の確定申告をして総所得金額を金四八四万六〇〇〇円(内訳(1)農業所得五万六〇〇〇円、(2)配当所得二六万円、(3)給与所得四五三万円)と申告したところ、被告は四九年七月九日付で右金額を金三八四八万〇五〇〇円、税額一八四八万〇五〇〇円に更正する旨の処分及び過少申告加算税、重加算税賦課決定処分を行ない、同月一〇日原告に通知した。

2  原告はこれに対し、同年九月一〇日被告に異議の申立てをしたが同年一二月八日被告はこれを棄却した。

さらに原告は、昭和五〇年一月八日国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同所長は重加算税五五〇万四四〇〇円の部分のみを取消し、過少申告加算税を九一万九〇〇〇円に変更の上、更正処分に対する審査請求を棄却した。

原告は昭和五一年八月九日その裁決書謄本の送達を受けた。

3  しかしながら原告の昭和四七年分の所得は、前記申告額に右更正処分を受けた配当所得一六万五九九〇円と給与所得八八〇円を加算した五〇一万二八七〇円であり、被告が認定した雑所得三三二六万八一〇〇円は、原告の所得を過大に認定した違法がある。

よつて原告は被告に対し本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分について、原告の昭和四七年度における総所得金五〇一万二八七〇円に対する所得税額七九万四八七六円を越える部分及び右過少申告に対する過少申告加算税一六〇〇円を越える部分の取消を求める。

二、 請求原因に対する認否

1  請求原因第一項は認める。但し、確定申告の総所得金額は四八六万円であり、被告が昭和四九年七月八日付で総所得金額を三八二八万〇九七〇円と更正したものである。

2  同第二項は認める。但し、被告が異議申立を棄却したのは昭和四九年一二月七日付である。

3  同第三項中、原告の昭和四七年分の雑所得を除いた総所得金額が五〇一万二八七〇円であることは認める。その余は争う。

三、 被告の主張

1  原告の昭和四七年分所得税の確定申告、更正処分及び裁決の内容は、別表(一)のとおりであつて、被告が昭和四七年度の原告の所得として主張するところは、同表裁決額と同一である。

2  雑所得について

原告は、原告、内田静子及び野田龍介名義で商品取引員である訴外株式会社サンライズ貿易(以下、これを訴外会社という。)と商品市場における上場商品の売買取引の委託契約を締結し、昭和四七年中において、その市場における商品の売買取引の委託により合計三三二六万八一〇〇円の所得を得ていたものである。

なお、右雑所得の各名義別の内訳は、別表(二)のとおりである。

四、 被告の主張に対する認否及び原告の主張

1  第1項は認める。(但し、原告の雑所得が三三二六万八一〇〇円であるとの点を除く。)

2  第2項については、別表(二)3野田龍介名義分、商品名毛糸における売買損が二三七八万六五〇〇円であるとの点(従つて、結果的に商品の売買取引の委託により合計三三二六万八一〇〇円の利益を得たとの主張を含めて)を除き、その余の事実は全て認める。

3  原告の右野田名義での取引による売買損は五八七四万六一〇〇円であつて、被告主張額との差額三四九五万九六〇〇円は次の経緯によるものである。

即ち、原告は昭和四七年一二月二〇日現在において、二月限月毛糸八八枚、三月限月四八枚、四月限月五〇枚の先物商品の売建玉残があつたので、同日訴外会社に対して右建玉に見合う商品を買付け決済すること(以下、本件取引という。)を委託した。その際、条件として一応指値を二一〇〇円とし、それで買付けができないときは同年の大納会(一二月二八日)の最終節で成行で買付け決済をつけるように注文し、右訴外会社はこれを承諾した。ところが、右注文を直接受けた訴外会社の事業部長渡辺真は取敢えず指値伝票の手続のみをして大納会で成行注文をして決済する旨の手続を失念して了つた。そこで、指値分の取引は結局不成立に終り、右失念に気付いた訴外会社は翌昭和四八年一月五日前記建玉の成行決済を行い、これにより原告の売買損金は四〇〇六万二〇〇〇円となつた。

4  右事実からすれば、前記建玉の決済が行われたのは形式的には昭和四八年一月五日であるが、前述のとおり原告の意思としてはあくまで昭和四七年中に決済する心算であり、右注文は最終的には成行決済でも止むを得ないという内容であつたので、訴外会社が委託の趣旨に沿つて、これを実行したならば当然大納会で売買が成立した筈であつて、しかも商品取引所の会員でない原告としては訴外会社を相手として契約する他なく、同社の過失によつて売買が成立しなかつたとしても、手の施しようもないのであるから、これら商品取引の実体や原告の担税力の乏しいことを考えれば、被告は本件取引が大納会において成立したものと仮定して、大納会最終節値による決済後の損失金三四九五万九六〇〇円(値洗差金三四二一万五六〇〇円、手数料七四万四〇〇〇円)を原告の昭和四七年度の他の雑所得と通算し、雑所得がなかつたもの(マイナス部分は打切り)と認めるべきである。

五、 原告の主張に対する認否

原告の主張3の事実中、原告が大納会の最終節で成行で買付け決済をつけることを注文し、訴外会社がこれを承諾したこと及び訴外渡辺事業部長が大納会で成行注文をして決済する旨の手続をすることを忘れたことについては不知であるが、その余の事実は認める。

第三、 証拠

一、 原告

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし一一、第五号証、第六号証の一ないし六、第七、八号証

2  証人渡辺眞、原告本人

3  乙号証の成立は全て認める。

二、 被告

1  乙第一号証の一、二、第二、三号証、第四号証の一ないし七、第五、六号証の各一、二、第七号証の一ないし七

2  甲第一ないし第三号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、 請求原因1及び2項は、確定申告の総所得金額、更正処分の日付、更正金額、異議申立を棄却した日付を除いて、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証及び甲第八号証によれば、右の争いある事実のうち、確定申告の総所得金額は四八六万円、更正処分の日付は昭和四九年七月八日、更正金額は三八二八万〇九七〇円、異議申立てを棄却した日付は昭和四九年一二月七日であることがそれぞれ認められる。

二、 次に、被告の主張について判断するに、被告が原告の昭和四七年度の所得として主張する事実(被告主張第1.2項)のうち被告が別表(二)3野田龍介名義分、商品名毛糸における売買損は二三七八万六五〇〇円であると主張するのに対し、原告が同売買損は右二三七八万六五〇〇円に本件取引による売買損と見做すべき三四九五万九六〇〇円を加えた五八七四万六一〇〇円であると主張する他は全て当事者間に争いがない。

ところで、原告の主張第3、4項の本件取引による売買損金が、昭和四八年一月五日に現実に、決済されたところでは四〇〇六万二〇〇〇円であり、仮にこれが昭和四七年一二月二八日大納会最終節値で決済されたとすると、三四九五万九六〇〇円となることは、当事者間に争いのない事実であるから、本件における争いは、結局右三四九五万九六〇〇円という損金(あるいは損金と見做すべき金額)を原告の昭和四七年度の雑所得に計上すべきか否かという点に帰するものと考えられる。

三、 そこで、この点について検討するに、原告が本件取引の委託契約から決済に至る経緯として主張する事実(原告主張第3項)については、原告が大納会最終節で成行で買付け決済をつけることを注文し、訴外会社がこれを承諾したこと及び訴外渡辺事業部長が右決済手続をするのを失念したことを除いて当事者間に争いがなく、右争いのある事実についても証人渡辺眞の証言及びこれにより成立の認められる甲第一ないし第三号証並びに原告本人尋問の結果によつてこれを認め得るのであるが、思うに商品取引に係る損益は、原告と訴外会社との間において、商品買付の委託契約が成立しただけでは、たといその委託の内容が成行で決済して欲しいとの趣旨であつたとしても、ただそれは委託に係る取引の成立する蓋然性が高いというに止まり、それ自体は委託価格特定のための一つの方法に過ぎないのであるから現実に右委託に係る反対売買が成立して決済が行われない限りその損益は確定せず、右決済が完了して始めてこれが明らかになるものと解されるから、結局右に述べたことからすれば、所得の確実性及び明確性という点からして、商品取引に係る所得の帰属年度はその委託による反対売買が成立して決済が行われた日の属する年度、即ち本件では昭和四八年度と解するのが相当であって、このように解するときは、確かに時として、本件のように自己の手の届かないところにおける受託者の過失によりその意に反した年度にその損益を計上せざるを得ず、他の雑所得との通算関係次第では予期に反する納税義務を負う結果となることもあろうが、これも期間損益計算を行う以上、ある程度止むを得ないことであつて、逆の事態も十分起り得るわけであるから、必ずしも一方的に納税者に不利益な解釈とも考えられず、これにより原告の被つた損害は基本的には原告と訴外会社との委託契約上の責任として考慮されるべき事柄であって、前述のように所得の確実性や明確性ということからすれば、原告主張事実をもつて特に本件のみを別異に解しなければならないものと考えられないから、結局原告の主張は採用の限りでなく、被告の本件更正及び過少申告加算税賦課決定処分には何ら取消されるべき違法の点は存しないものといわねばならない。

四、 以上の次第であるから、原告の本訴請求は失当として棄却することにし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 美山和義 裁判官 綱脇和久 裁判官 河村吉晃)

別表(一)

〈省略〉

〈省略〉

別表(二)

1 原告名義分

〈省略〉

2 内田静子名義分

〈省略〉

3 野田龍介名義分

〈省略〉

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例